第3回「高給取りの友だちとボーナスについて語る問題」
天は人の上に人を造ったり人の下に人を造ったりしないと、福沢諭吉は言いました。それはそうなんでしょうけど、ビジネス社会は高い給料の人とそうでもない給料の人をハッキリと作り出します。まさに「福沢諭吉」の枚数によって差ができてしまうのは、何とも皮肉だと言えるでしょう。
ほかの会社の友だちと話していて、自分より給料が多いか少ないかは、会社の規模や景気などでだいたい推測できてしまうもの。もちろん、少ないからって卑屈になる必要はないし、ちょっとばかり多くもらってるヤツに偉そうな顔をされる筋合いもありません。あくまで「人それぞれ」というスタンスで、給料の差は気にしていないフリをしながら自然に接するのが、大人の大原則であり、意地の見せどころです。
ただ、その「自然に接する」というのが、なかなかの難問。3回目の今回は、自分より明らかに高給取りの友だちとボーナスの話題をかわすときに、どんなことに気をつける必要があるかを考えてみましょう。
格差の再確認は、むしろ必要な行為
久しぶりに集まった学生時代の友だち何人かと、居酒屋で飲んでいるとします。あるいは、転職した元同僚を含む酒の席でもかまいません。誰かが「ボーナス払いで○○を買っちゃった」という話を始めました。そこから、話題は次第にボーナス方面へ。
今日のメンバーの中で、もっともたくさんボーナスをもらっていそうなヤツに、
「お前のところは景気いいから、かなりいい感じでもらえるんじゃないの」
と話を振るのは、大人としてけっして間違った行為ではありません。たぶん相手は、
「いやあ、そんなことないよ」
などと遠慮がちに答えるでしょう。ボーナスの話題が出たからには、自他ともに認める稼ぎ頭にはそこまではやらせてあげないと、本人としては物足りなさが残ってしまいます。
肝心なのは、そのあとのリアクション。
「またまたー、謙遜しちゃって。いくらぐらい出そうなんだよー」
さらに踏み込んで、そんなふうに具体的な金額を聞いてしまうのは最悪です。しばしば「ボーナスの額の違いなんて気にしていない証として、あえて尋ねるんだ」という理屈で、己の悪趣味な好奇心の自己弁護をする人もいますが、第三者からは嫉妬を無遠慮にぶつけているようにしか見えません。
「まあ、そんなことないって言ったって、オレよりはるかに多いのは確実だけどな……」
などと勝手にいじけるのも慎みたいもの。持ち上げているように見せつつ、相手をちょっと困らせて、小さく復讐しているセコい了見が漂ってしまいます。
話をそらした上で、早めに終息させる
相手が「いやあ、そんなことないよ」と答えていちおう満足してくれたら、お互いの金額の格差から、さりげなく話をそらしましょう。
「ウチの会社って、ボーナスって同期同士でもけっこう差がつくんだよね。給料は、残業手当以外は似たようなもんなんだけど」
と、自分の会社の制度的な特徴を語ってお茶を濁すのも、ひとつの手。そこに生じる気まずさを一般論として語ることで、今ここに生じている気まずさをウヤムヤにできます。
「でもさあ、ボーナス払いって危険だよね。アテにしていろいろ買っちゃうんだけど、気がつくとボーナスの額を軽く超えてたりして」
話をあえて戻して、そんな「よくある失敗談ネタ」に持っていくのも無難なかわし方。それなら、もっともたくさんボーナスをもらっているヤツも、みんなといっしょに「そうそう、やっちゃうよね」と苦笑いできます。ま、年収がケタ違いに高くて、少しぐらいボーナス払いで買ってもビクともしなかったり、そもそもボーナスに頼って買い物をする必要がなかったりする場合は、この手は使えませんが……。
あれこれ策を弄しても、むしろ泥沼にはまる危険性はあります。もっとシンプルに、
「サラリーマンは、ボーナスが楽しみで働いてるみたいなもんだよなあ」
誰に言うともなくそう呟いて、みんなの共感を得つつボーナスの話題を終息させてしまうのも、大人としての勇敢かつ賢明な判断。
どういう持っていき方をするにせよ、深追いは禁物です。お金がらみの話題の場合、話の流れで危険な荒波が押し寄せてくるケースがままありますが、大人力という防波堤で被害を最小限に抑えましょう。
どの作戦も、最初に言った「自然に接する」どころか、金額の話から話題を遠ざけようという意図が見え見えの不自然な対応に思えるかもしれません。しかし、それはあまりにも浅はかな解釈。どんどん危険な方向に流れていくのがわかっている場面では、全力でもがいてなんとか助かろうとすることこそが、大人にとっての「自然」な反応です。
石原壮一郎
1963年三重県生まれ。月刊誌の編集者を経て、93年に『大人養成講座』でコラムニストとしてデビュー。独特の筆致とスタンスが話題を呼び、以来、日本の大人シーンを牽引し続けている。
主な著書に、『大人力検定』『大人力検定DX』(文春文庫PLUS)、『父親力検定』(岩崎書店)、『30女という病』(講談社)などがある。本連載では、「お金」という大人が避けて通れない難問に真っ向から挑み、このややこしい大人社会を生き抜くためのお金力を養うための画期的なヒントを浮かび上がらせていく予定。
カラスヤサトシ
1973年大阪府生まれ。会社員の傍ら漫画を執筆、95年にデビュー。03年から「月刊アフタヌーン」の読者ページの欄外に、身の回りで起こったおかしな出来事や思い出をエッセイ風に紹介した四コマ漫画・「愛読者ボイス選手権 特別版」を掲載、その独特の作風が反響を呼び、06年には連載ををまとめた単行本『カラスヤサトシ』(講談社)を出版(現在3巻まで発行)。その後『萌道(もえどう)』(竹書房)を出版。
本連載では、会社員生活とフリー生活で培った金銭感覚をもとに、独自の視点でお金にまつわる諸問題に挑む予定。


