アフターデス。
四月某日 晴
友だちと、夕飯。
ピザを食べたいと友だちが言うので、飲み屋さんがたくさん集まった小路にある、一度入ってみたいと思っていたひどく古びたお店、「ピザ&バー ペーパームーン」に入る。
こわごわ店に入ると、そこはアメリカ西海岸ふうの普通のバーで、ひとまず安心する。
ピザと一緒に、店主はホットチリソースを三本、卓に持ってきた。
一本めは、「アフターデスソース」。
二本めは、「サドンデスソース」。
最後のは、「ウルトラデスソース」という名である。
「どれも、心底、辛いです。死ぬ可能性もありますから、たくさんかけないで下さい」
無表情に、店主は言った。
こわくて、もちろん友だちもわたしも手を出さなかった。ピザの味は、まあまあ。
四月某日 曇
でも、やっぱりデスソースは、試すべきだったのではないかと、突然気もそぞろになる。
友だちに電話して、ふたたび「ピザ&バー ペーパームーン」を訪ねることを提案。
四月某日 雨
「ペーパームーン」を再訪。
けれど、表にはこんな張紙が。
「事情により店じまいのはこびとなりました。長年のご愛顧を感謝いたします。なお、デスソース愛好会の活動は、引き続きおこなう所存です」
「デスソース愛好会」の連絡先が書いていないかと探したけれど、どこにもなかった。
ああ、せめて一滴ずつでも、味わっておくべきだった、アフターと、サドンと、ウルトラ。
四月某日 晴
近所を散歩。
有料駐車場の誘導をしている、やせたおばあさんの警備員が、耳にきれいなパールのピアスをしているのを発見。
作業服とパールピアスが、こんなに似合うなんて。
四月某日 雨
新宿伊勢丹前で、紺色のスーツの胸ポケットから、「せんとくん」の携帯ストラップが飛び出ているおじさんを発見。
とっても、微妙。
四月某日 曇
「POLICE」とロゴの入ったエナメルバッグを斜めがけしている警官六人を、総武線の中で発見。
警察の人たちなのだから、そりゃあ「POLICE」なのだろうけれど、なんとなく釈然としない。
斜めがけ、あるいは、エナメル、というあたりが、あやしさのポイントか。
四月某日 晴
近所を散歩。
「ペーパームーン」に行ってみる。
やはり店は閉じており、張紙もなくなっていた。ただ、固く閉じられた鎧戸に、血の色のペンキで、
「メガデスソースも忘れるな!!!」
と吹きつけてある。
メガデスソース。
それは、四番めのデスソースなのか?
謎は深まるばかりである。
