十七回め。
三月某日 晴
雑誌の、「片づけ特集」号を買ってきて、熟読する。
「多くの人が、リバウンドに苦しめられています」
という文章を発見して、びっくりする。
リバウンド。
ダイエットに成功した後に、ふたたびじわじわと太りはじめてしまった時にだけ、使う言葉なのだと思っていた。けれど、どうやら「片づけ界」においても、「片づけに成功したのち、ふたたびじわじわと部屋が散らかってきてしまった」ことを、リバウンドというらしいのである。
とすれば、
「家の中で一日じゅうパジャマで過ごさず、ちゃんとした服に着替える習慣がついたのち、ふたたびパジャマにずるずる戻ってしまった」
「休肝日を週二回もうける習慣がついたのち、ふたたび毎日飲むようになってしまった」
「ドラクエを繰り返しやる習慣を絶ったのち、十七回めをまた始めた」
「好物でも床に落ちた食べものは拾わない習慣がついたのち、やっぱり拾って食べた」
等々、思い起こしてみれば、わたしの人生「リバウンド」だらけである。
明日から「リバウンド川上」と名乗ろうかと本気で吟味しつつ、就寝。
三月某日 雨
友だちから、電話。
「あのね、あたし、前に阿修羅展に行った話、したよね」
と、友だち。
「二時間並んだことも、言ったよね」
「うん」
「日本人は、阿修羅がこんなにも大好きなんだって思ったことも、言ったよね」
「うん」
「で、昨日は土偶展に行ったの。そしたら、これも一時間半待ちだったの」
「うん」
「阿修羅はまあわかるとして、日本人って、土偶のことも、それほど好きだったの? ねえ、日本人って、どういう人たちなの」
憤然と、友だちは聞くのだった。
わたしにも、わかりません。
三月某日 曇ときどき雪
電車に乗る。
寒い日で、雪もちらつきはじめた。
扉の横に、胸もとがものすごくあいた服を着ている女の子が立っている。
寒いので、女の子の胸には鳥はだがたっている。
大きないいかたちの胸で、まんなかには深い谷もできていて、ぜんたいにとっても美しいのだけれど、鳥はだのせいで、次第にその胸がざらざらした肌のお尻にみえてきて、どぎまぎする。
胸の美しいみなさん。
鳥はだが立ちそうな日には、あんまりくりの深くない服を着たほうが、無難だと思います。
三月某日 雨
居酒屋で、お酒を飲む。
たくさんの種類の焼酎が置いてあるお店である。焼酎もおいしいし、料理もいい。
店主がしているエプロンに、「ラーメンすえよし」というロゴが入っているので、
「ラーメンすえよしとは、どこにあるお店なんですか」
と聞いてみる。
「ラーメンすえよしは、この店です」
「ああ、このお店の前身はラーメン屋さんだったんですか」
「いや、今もここは、れっきとしたラーメンすえよしです」
けれど、お店のメニューには、ラーメンは、ない。看板に書いてある店名も、「ラーメンすえよし」とはまったく違う。
「で、でも、ここはラーメンすえよしなんですね」
気弱に確認すると、店主は大きくうなずいた。それから、大きな腹をさらに大きく突き出して、ゆさゆさと揺らすのだった。
