虫のいろいろ。
十一月某日 晴
先月までは、まだほんの少しだけ夏の名残があったのだけれど、十一月になり、さすがに秋も深まってきている。
川沿いを、散歩。
帰ってからうがいをしようと洗面所の鏡の前に立つと、頬に何か黒っぽいものがくっついている。よく見ようと鑑に近づくと、それは、一匹の蚊であった。
ほっぺたを、刺そうとして、けれどそのまま力つきてしまったらしい。
「死んでますか」
と、小さな声で聞いてみたが、返事はない。
指先で、かすかにふれてみるが、固まったまま動かない。
ふん、と、ほっぺたをふくらませたら、蚊は、白い洗面台にばらっと落ち、そのまま水に流されていった。
十一月某日 晴
夜中、ふと目覚める。
手元灯をつけると、壁に何かがいる。
ごきぶりである。
小さく叫ぶと、ごきぶりは少し動いた。けれど、その動きはとてもにぶい。
こわごわティッシュでつかむと、かんたんにとれた。
ほんとうに秋は深まっているのであるなあと嘆息しながら、静かにごきぶり入りティッシュを、台所のごみ箱に捨てにゆく。
十一月某日 雨
居酒屋に行く。
鯛の頭の焼いたのを食べる。
こまかな骨がいっぱいだけれど、おいしいので、しゃぶりつくす。
同席のひとに、
「カワカミさんのしゃぶった骨、いいつやが出てますね」
と言われる。
十一月某日 晴
電車に乗る。
名門女子小学校の女の子たちが、乗ってくる。学校帰りらしい。
どの女の子も、大きな紙袋を持っている。
グッチ。エルメス。セリーヌ。シャネル。
それぞれの袋の中には、プラスチックの虫かごが入れられており、各虫かごには、一匹ずつカマキリが入っている。女の子たちは、高級紙袋から、ときおり虫かごを出しては、それぞれのカマキリをじいっと眺めている。
「そっちの茶色いの、死んでいるじゃないの」
「そっちこそ、体おっきいけど、弱そう」
小さな声で、女の子たちは言い合う。カマキリは、どれも固まったように、じっとしている。しばらく言い合うと、女の子たちは飽きたのか、カマキリをそれぞれのグッチ・エルメス・セリーヌ・シャネルに戻した。カマキリは、どれも最後まで、動かずに固まっていました。
