佐藤優 : キリスト教神学概論

第28回 「「愛」である神の属性(一)恩恵」

●贈与としての恩恵

 愛であるという神の本質から導き出される神の属性には、恩恵、義と憐れみ、信実、知恵がある。ここで特に重要なのは、恩恵である。神はそのひとり子であるイエス・キリストを、人間を救済するためにこの世に派遣した。そして、イエスは十字架にかけられて死んだ。この恩恵に対して、神は人間からの見返りを何も要求していない。すなわち、恩恵は神による見返りを求めない贈与なのである。
 そこで、「受けるよりも与えること」が重要であるというキリスト教倫理が生まれる。人間の生は、他者のために存在するのである。もっともカトリック神学においては、恩恵は愛ではなく、超自然的な神のカリスマ(賜物)としてとらえられている。

〈愛という本質の系列に属するものとして恩恵があげられるが、恩恵は愛するものに対する無条件な贈与という意味での愛である。この場合重要なのは、恩恵は罪人の救済に関するだけの概念ではないということである。和解はもちろん創造も恩恵の業なのであり、完成も恩恵の業なのである。カトリック教会では恩恵を愛としてではなく、超自然的な賜物として理解する傾向がある。そのかぎり恩恵という概念は属性論では故意に避けられる傾向があり、恩恵の代わりに慈愛とか憐れみがあらわれる。これは恩恵を実体概念としてとる結果であ(る)〉(前掲書101~102頁)

 恩恵は実体概念ではない。イエス・キリストが具体的な人々との交わりの中でどのような行動をとったかという関係に、神の一方的贈与である恩恵が表れているのだ。ここから「関係の類比」の手法によって、われわれは恩恵を理解することができる。

 

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(2008年12月24日更新)
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佐藤優
写真提供=共同通信社
【著者略歴】
1960年生。起訴休職外務事務官・作家。同志社大学神学部卒業。同大学院神学研究科終了。緒方純雄教授に師事し、組織神学を学ぶ。1985年に外務省入省。在英日本国大使館、ロシア連邦日本大使館などを経て、外務省本省国際情報局分析第一課に勤務。外交官として勤務するかたわら、モスクワ国立大学哲学部客員講師(神学・宗教哲学)、東京大学教養学部非常勤講師(ユーラシア地域変動論)を務める。2002年、背任と偽計業務妨害容疑で逮捕。2005年2月、執行猶予つき有罪判決を受け、現在上告中。『自壊する帝国』(新潮社)で第38回大宅壮一ノンフィクション賞、並びに第5回新潮ドキュメント賞、『国家の罠』(新潮社)で第59回毎日出版文化賞特別賞を受賞。『私のマルクス』(文藝春秋)、『獄中記』(岩波書店)など著書多数。

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