佐藤優 : キリスト教神学概論

第14回 「神学の区分(三)組織神学」

●組織神学

 組織神学とは、一般には耳慣れない言葉だ。ときどき教会の組織や運営に関する神学と勘違いされることがあるが、それは組織神学ではなく、実践神学の分野に属する。
 組織神学(ドイツ語のSystematische Theologie、英語のsystematic theology)の「組織」とは、キリスト教が正しいことを、他の諸学問との関係において、体系的(組織的)に明らかにするという意味をもつ。言葉の本来的意味での護教学だ。体系神学と訳した方がわかりやすいのであろうが、組織神学という術語が定着しているので、それを踏襲する。
 組織神学は、以下の三つに区分される。

・教義学(教理学)
・倫理学
・宗教哲学

 教理史のところで述べたように、プロテスタント神学では、本来的に単一の教義は存在しない。原罪をもつ人間は、不完全な存在である。従って、そのような不完全な存在である人間が、神について正確に知ることはできないのである。人間は原理的に神について知ることはできないのであるが、神について知るための努力をしなくてはならないという「不可能の可能性」に挑むことが神学の任務なのである。従って、プロテスタント神学の立場からは、教義学(ドイツ語のDogmatik,英語の Dogmatics)は、教理学と訳した方がよいのであるが、教義学という術語が定着しているので、それにあわせる。
 教義学はもともと神学そのものを指した。17世紀以降、この言葉が定着したが、近代初期までは、弁証学や論争学などの名称で、教義学については語られていた。弁証学とは、キリスト教神学者が、非キリスト教の宗教や世俗思想に対して、キリスト教の正しさを証明する学問である。論争学とは、キリスト教の内部において、他グループのキリスト教解釈の誤りを摘出、論破し、自グループのキリスト教解釈が正しいことを示す学問である。論争学が先鋭化すると異端審問になる。
 キリスト教において、真理の源泉は神からの啓示である。神の啓示は、新約聖書と旧約聖書に明らかにされている。ちなみに、キリスト教神学において聖書を解釈する場合は、あくまでも新約聖書が基点になる。キリスト教徒が救い主と信じるイエス・キリストについて記された正統的文書である新約聖書の視点から、旧約聖書を解釈するのである。
 この啓示の内容を、時代の思想的状況の中で、解釈し、表現することが教義学の課題である。
 キリスト教は救済宗教である。キリスト教の教理を学ぶことは、それによって救済の確信を得るためである。従って、教理についての知識を得ることと、一人のキリスト教徒として行動することは、メダルの表と裏の関係にある。プロテスタンティズムは「信仰のみ」(ラテン語でsola fide)を強調するが、これは「内面の信仰さえあれば、行動はどうでもいい」ということではない。キリスト教徒は、信仰があれば、直ちにそれに基づいた行動をとる。カトリック教会のような「信仰と行為」というような区分では、あたかも信仰と行動の分離が可能であるかというような誤解が生じるので、「信仰のみ」という基準を高く掲げたのである。
 宗教哲学は、厳密に言うと、神学には含まれない。神学の補助学と位置づけるのが適切だ。教会というフィルターを通さないキリスト教に関する思弁が宗教哲学に含まれる。また、宗教哲学という発想自体に、人間の知的営為である哲学(知を愛すること)とキリスト教を整合的に理解するという意味が内包されている。しかし、キリスト教の理解では、啓示は人間の哲学を破壊する力がある。神学が、その時代の哲学の形を借りていることは間違いないが(従って、神学研究にあたっては哲学史の知識が不可欠になる)、哲学が神学を包摂することはできない。
 キリスト教以外の宗教について研究する宗教学や宗教史も、神学の区分では、宗教哲学に含まれる。

〈演習問題3
 弁証学と論争学の違いについて、簡潔に説明せよ。(300字~600字程度)〉

〈演習問題4
 キリスト教神学と宗教哲学の違いについて簡潔に説明せよ。(300字~600字程度)〉

 

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(2008年7月23日更新)
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佐藤優
写真提供=共同通信社
【著者略歴】
1960年生。起訴休職外務事務官・作家。同志社大学神学部卒業。同大学院神学研究科終了。緒方純雄教授に師事し、組織神学を学ぶ。1985年に外務省入省。在英日本国大使館、ロシア連邦日本大使館などを経て、外務省本省国際情報局分析第一課に勤務。外交官として勤務するかたわら、モスクワ国立大学哲学部客員講師(神学・宗教哲学)、東京大学教養学部非常勤講師(ユーラシア地域変動論)を務める。2002年、背任と偽計業務妨害容疑で逮捕。2005年2月、執行猶予つき有罪判決を受け、現在上告中。『自壊する帝国』(新潮社)で第38回大宅壮一ノンフィクション賞、並びに第5回新潮ドキュメント賞、『国家の罠』(新潮社)で第59回毎日出版文化賞特別賞を受賞。『私のマルクス』(文藝春秋)、『獄中記』(岩波書店)など著書多数。

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